64

最終更新日時:2013-02-14 18:16:25
読書の秋



昭和64年に起きたD県警の管内で初めて起きた本格的な誘拐事件。
小学生の雨宮翔子は近くの親類宅に向かう途中、忽然と姿を消した。
誘拐事件としてD県警が対応したが、結局身代金2000万円を奪われた上、雨宮翔子は無残な死体で発見され、犯人を特定ですることも出来ないという最悪の結末。
それから14年の月日が経ち、時効まであと1年。
一方、本作の主人公であるD県警の三上は、刑事から広報官へと不名誉な異動となる。
さらに娘のあゆみが家出をした事により、仕事場での立ち位置が変わって様々な事が起こり、色々な事が見えてくる。。。


感想


基本的に、私は単行本は買わない主義なのですが、あまりに回りで絶賛されているので読んでみました(^_^;
横山秀夫の作品はこれが初めてです。
重厚かつ洗練された文章は正直最初は少々重い感じでしたが、主要な登場人物が描かれた後は一気に作中に引き込まれました。
圧倒的な文章力ですね。
本作は647ページという大長編ですが、まったく長さを感じさせず、むしろ読み切った後は寂しさが残るほどの内容。
と言っても、内容の濃さは素晴らしく、まだ序盤のうちから、これは終盤なのか!?と錯覚するような展開。
ストーリー的には警察内部とマスコミの関係が題材となっており、真実かどうかはともかく非常にリアルに描かれています。
それぞれの登場人物についても非常にしっかりと書かれており、それぞれの人物の思想や立ち位置が明確なので、読んでいて違和感がありません。
64が明らかになっていくにつれて逆に深まっていく謎も最後には明らかになり、そして最後にはまさかの大団円を迎え、、、ホントに読み応えのある作品で、文庫化する前に購入して大正解でした( ̄ー ̄)

***以降ネタバレあり***

序盤からいろいろ謎が解決していく楽しみがあるので、ほとんどの感想がネタバレになってしまうのがこの作品の難しいところw
まずはそもそも、この「64」という暗号みたいなタイトルですが、これは単純に昭和64年から来ているのですね。
これはちょっと拍子抜けでしたw

まずこの作品で特筆すべきなのは、やはり警察とマスコミの描かれ方ですね。
真実かどうかはともかく、非常に説得力のある内容で、実際に警察の広報と記者クラブとではこのようなせめぎ合いがあっておかしくないと感じます。
そして、刑事と警務との対立も非常に説得力があり、娘の家出とあわせてこの主人公の心情が非常に共感でき、自分が主人公になった気分になりますね。
そんな中での警務部長からの圧力や記者クラブからのクレームの件では本当に居たたまれない気持ちになります。
主人公が警務部長から特命を受け、話が64に移ると、ストーリーは急激に速度を増します。
持ち前の刑事力で調査して外堀を攻略していき、だんだんと本丸へ迫る。
この部分が作品の大部分となるわけですが、この過程の構成が非常に秀逸で、あとあとよく考えてみると、この間がたかだか1週間程度であることにビックリ!
驚くべき濃さです。
この間に主人公の意識が揺れ動きつつも固まっていくわけですが、この過程が本当に共感できますね。
そして、幸田メモの内容や警察庁長官の訪問の真の狙いが明らかになり、この決着はどうなるのか、、、と思ったところでの誘拐事件。
このタイミングでの事件は都合が良すぎるので、刑事部のでっちあげ事件、、、と誰もが思うわけですが、かと言って本物であればシャレにならない。
ということで、これをどうやって解決するのか、、、が本当に見物だったわけですが、まさか64の犯人によるでっちあげ事件とは思いませんでした(^_^;
いや~これはホントにビックリ!ですが、もっともシックリと来る流れですね!
これで、雨宮の爪とか無言電話、雨宮/幸田の直前の失踪もしっかりと繋がり、明快となります。
この過程での三上の部下達の変化や記者クラブの面々の変化は見ていて本当に気持ちよい!
64事件も全て解明され、ハッピーエンド、、、、となり大満足です( ̄ー ̄)

なのですが、最後に少々苦言も(^_^;
これだけ伏線が最後にバシッと見事に繋がっているので、逆に放置されているものが非常にもったいない感じがします。
個人的には、全てに決着を付けて欲しいので、それだけが残念でした。
例えば、以下のようなものですね。

・あゆみの所在
結局生死も不明。妻の美那子曰く、「あゆみのいる場所ではなかった」みたいなことを言ってるけど、であれば、その「いるべき場所」にたどり着いたことを示して欲しかった。

・日吉のその後
完全引きこもりとなってしまった日吉に、事件解決後に電話をしたまでは良かったのですが、結局その反応が不明。非常に気になる

・刑事部長の召し上げ
長官の訪問は中止となったが、その後は?
結局刑事部長が中央に召し上げとなったのでは、かなり寂しいモノがある

・雨宮と幸田
64になぞった誘拐事件をでっち上げ、おそらく自首したのではないかという思わせる記述はあったが、実際には不明。

・64事件の解決
そして最大の未決事項といえばこれ。
結局64事件は解決したのか。
謎自体は全て解明した気になれるが、実際に目崎が自供したわけでもなく、最後は紙を食べることまでもしている。
実際には証拠も無いので自供に頼るしかないのだが、犯人と出来たのだろうか。

ただ、このような不明点があるからこそリアリティがあるので、全てに決着を付けてしまうと、いわゆるご都合主義的な雰囲気にもなってしまうかもしれませんね。

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